春雷ブロッサム

それから凪原くんは、自宅付近まで来ると「家の場所知られたくないなら、俺は手前で帰りますけど、どうします?」と気遣い声を掛けてくれたが、わたしは結局家の前まで送ってもらってしまった。

「ごめんね、降りる駅違うのに、送ってもらっちゃって···」

わたしが申し訳なく思いながらそう言うと、凪原くんは「大丈夫です。気にしないでください」と、本当に何とも思っていないような雰囲気で言った。

「あ!タクシー呼ぶね!お金は、わたしが払うから!」

そう言って、わたしがトートバッグからスマートフォンを取り出そうとすると、凪原くんは「いえ、大丈夫です。じゃあ、お疲れ様でした」と言い、ふと小さく手を上げ歩き始めた。

「え!でも、何かお礼くらいさせて!」
「いや、本当に大丈夫なんで」
「でも、何かさせてもらえないと、わたしの気が収まらない!」

わたしが強めの口調でそう言うと、凪原くんは一度足を止め、ふと振り向くと「じゃあ、ミルクティー奢ってください」と言い、フッと微笑したのだ。

「···ミルクティー?そんなのでいいの?」
「俺、飲み物の中で一番ミルクティーが好きなんで」
「そうなんだ、わかった!」

わたしがそう言うと、凪原くんは柔らかい表情を浮かべ「じゃあ、また明日。おやすみなさい」と言い、再び歩き出し、帰って行った。

「おやすみなさい」

(凪原くんって、ミルクティー好きなんだ···)

あのクールさからブラックコーヒーなどを想像したが、意外なミルクティーに新たな凪原くんの一面を知った気になる。

わたしは「ミルクティーかぁ···」と呟きながら、トートバッグから鍵を取り出し、自宅のドアを開ける。

(今日は、何だかいい日だったなぁ)

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