春雷ブロッサム
(紙?何だろ、これ···)
わたしはその紙をランチバッグの中から取り出し、開いてみる。
すると、そこには見覚えの無い文字が並べられていた。
『旦那さんに食べてもらえないお弁当を作り続ける気持ちは、いかがですか?』
女性らしい癖のある丸文字。
それは達也の字ではなかった。
「何、これ···」
真四角の付箋に書かれた、まるでわたし宛の挑戦状。
(食べてもらえてないって···、じゃあこの空のお弁当箱の中身は?どこに消えたの?)
わたしはお弁当箱の蓋を開けて中を確認した。
もちろん、お弁当箱の中は空っぽだったのだが、これは食べて空になっているわけではないという事なのか。
わたしは空っぽのお弁当箱の中を見つめながら、消えた中身の行方を頭の中で巡らせた。
つまり、それって···―――
すると、バスルームのドアが開く音がして、わたしは慌ててランチバッグの底に潜んでいた淡いピンク色の付箋をエプロンのポケットに突っ込んだ。
そしてわたしは何食わぬ顔でお弁当箱を洗い始めた。
「―――ねぇ、達也」
「あ?」
わたしの呼び声に怠そうに返事をする達也は、肩にタオルを掛けながらソファーに腰を落とし、再びスマートフォンをいじり始めた。
「今日の玉子焼きどうだった?ちょっと失敗しちゃったんだけど」
「え?玉子焼き?別にいつも通りだったけど」
「そっか、なら良かった」
この会話に達也は何の違和感も抱いていないだろう。
しかし、わたしはこの時に確信してしまったのだ。
(やっぱり、達也はお弁当を食べてないんだ···)
だってこの日のお弁当には、玉子焼きは入れていなかったのだから。