春雷ブロッサム
Bloom.1
仕事を終え、まだ少し冷たい夜風に吹かれながら、会社から徒歩5分先にある最寄り駅まで一人歩く。
会社近くの広い道路には桜並木があり、歩道には風で散った桜の花びらがあちこちに落ちていた。
寒い冬を越え、春になれば気持ちも晴れやかになれるような気がしていたが、自分が思っていたよりも離婚のダメージはわたしの心に傷をつけているようで、この風の冷たさがやけに身に沁みる。
駅まで辿り着くと、交通系ICカードをタッチして改札を通り、ホームを抜ける風がしばらく放置して肩下まで伸びた髪の毛を吹き荒らす。
帰宅ラッシュの時間帯の為、ホームは仕事帰りのサラリーマンや学生が多く、わたしは風で乱れた髪の毛を手櫛で整えながら、並ぶ列の最後尾に立った。
まもなくして到着した電車は、既に多くの乗客を乗せている。
わたしは最後尾だった為、電車の扉ギリギリに立ち、扉の方を向いて電車が発車するのを待った。
「はぁ···」
小さな溜め息を吐きながら、今日の夜は何を食べようかと考える。
正直、食欲はあまりない。
今までの日課で毎日お弁当を持参しているけれど、お昼でさえ食べ切れずに残してしまう事も多い。
(買い置きしてあるカップ麺で済ませちゃおうかな)
そんな事を考えているうちに電車は発車し、目の前の景色が流れ始めた。
春になって日が長くなり始めたとはいえ、まだ夕方は薄暗い。
外に流れるビルや住宅の窓に灯る明かりが、そこに人々が存在している事を知らせているようだった。
わたしは家に帰れば独りだ。
まあ、今までも独りのようなものだったけれど···―――
すると、ふと背後に違和感を感じ始めた。
電車の中は混み合っているとはいえ、後ろの人があまりにも背中に密着し過ぎている気がしたのだ。