わたしだけの高校生獣医さま
 教室の雰囲気が明るくなる。女子たちは顔を赤くして、男子たちはすげぇとため息を漏らした。

「と、まあ、一条くんはイギリスの獣医大学を卒業している。けれど、日本には飛び級制度はない。だから、こうしてみんなと一緒に勉強してもらうぞ! もしかしたら一条の方が先生よりも頭が良いかもな! あはははっ! みんな、仲良くしてやってくれよ! 一条も変に大人ぶらないでわからないことがあったら先生やクラスメイトを頼れ! みんな1年A組の仲間だからな!」

 あっさりと自分より生徒の方が頭が良いと認められちゃう渋谷先生が逆にかっこいい。こんな器の大きな性格だから渋谷先生は人気があるのかもしれない。

「よろしくな! 一条!」
「飛び級なんてすごーい! あたしは大学受験予定なんだけれど、わからない問題とかあったら教えてね!」

 みんなから大人気の一条くん。その時、高らかな笑い声がした。

「わたくしが一条くんに1年A組に案内して差し上げますわ」

「まったく、高町(たかまち)伊織は今日も1年A組の女王様だな。悪いやつじゃないから仲良くしてやってくれ」

 渋谷先生がそう言った時、一条くんの視線がわたしを向いた気がして思わず赤面してしまう。こんな気持ち、生まれて初めてだ。

「それじゃあ、席を決めるぞ……えーっと、あ、小鳥遊さんの隣が空いていたな。とりあえずそこの席で授業を受けてくれ。2学期になったら席替えするから」

 わたしのとなりはたまたま空いていた。というか、わたしの隣に座りたい男の子がいなかったからというのが答えだった。みんな美人の伊織さんの隣に座りたがるからね。あいうえお順で常に隣の小鳥遊ひばりと高町伊織は自然と比べられちゃうんだよね。
 一条くんががっかりしないといいけれど……。

「よろしくな。実は俺、今朝小鳥遊さんが猫と喋っているのを見ていたんだ。小鳥遊さんは動物が好きなんだな……俺と気が合いそうだ」

「あ……は、はい……」

 わたしの顔は真っ赤だったと思う。わかりやすすぎるけれど、自分でも気持ちをコントロールすることができなかった。

「ひばりちゃんの隣かぁ、ひばりちゃんは男子から人気ないもんね……うふふっ」

 わざとらしく、一条くんにも聞こえるように伊織ちゃんが言う。

「こら! みんなで仲良くしろよ!」

 渋谷先生が注意すると、はーい、と元気よく返事をして良い子を演じるいおりちゃん。

「俺は小鳥遊さんのこと気に入ってるよ。小鳥遊さんのこと小動物みたいで可愛いと思う……」

 さらっとこんなことを言ってしまうイケメン。まつ毛が長くて凛々しい瞳は視線が合うたびにわたしの心臓の鼓動を速くする。

「おうおう、なにやら良い雰囲気やないかい。やるなぁ、ひばりちゃん!」

「ゲンちゃん!?」

 窓の外にいたのは猫のゲンちゃんだった。

「心配せんでも農場の餌を食べたりせえへん。美味いメシはぎょうさんもろうてるさかいな」

「こんなところまで来たらダメだよ」

 わたしが言うと、大人しくゲンちゃんは帰っていく。

「……すごいな。まるで、動物と話しているみたいだ……」

 一条くんが驚いた表情でわたしを見つめている。

「え、いや、そういうわけじゃないよ! ゲンちゃんとは仲良しでさ! あはははっ!」

「よかったらさ、授業の後に動物の飼育係の仕事を教えてよ」

 えええっ!? 本物の獣医さんに教えられることなんてあるのかな? 疑問に思いつつも、わたしは顔を真っ赤にして頷いた。なんだか、今日からわたしの学校生活が変わるような予感がする……なんとなくだけれど。
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