想定外につき、対処不要
 自宅に帰ってから予定を立てていると、監督から電話が来て、撮影時間の変更を午後からにしてほしいと伝えられた。その頃には3時を指していて、彼女にはメールを入れておいた。俺は目薬を2回ほど差してから眠りに付いたが、朝起きて洗面所に立つと、まだ霞んで見えた。

 眼鏡の度の具合かと思い、引き出しからコンタクトを出し、鏡を見ながら慎重に装着した。

 これで、良し、と眼鏡を隅のほうへずらし、眼鏡屋へ赴くことを考え、洗面所から抜け出した。朝食の準備をして、テーブルに着いた時、俺は彼女の事を思い浮かべた。

 時間的には眠っていると読んだけど、メールを入れた事で起こしてはいないかと気に掛かり、携帯を手にしたところで、画面が明るくなった。

 画面に表示された『おはようございます。承知しました。お待ちしてます』と簡素な文面を目にし、直ぐに俺は時計に視線を移した。この後は犬の散歩に行き、家に帰ったら世話をして、猫と軽く遊んでから、台本を読んで時間を潰すだろう。そう予測し、俺は朝食を口に運んだ。

 朝食を終えた後は身支度を整え始めたが、スーツは少し明るめの物を選んだ。自宅を出る前に姿見で全身を眺め、最後に時計のベルトを確認してから、自宅を後にした。
 駐車場に停めた社用車に乗り込み、時計を見てから、近所の眼鏡屋に向かい、車を走らせた。

 眼鏡屋は空いていて、直ぐに調べて貰えたが、視力に特に変化はないという結果が出て、少し困惑してしまった。
 車に乗り込んで、バックミラーで軽く確かめながら、眼鏡を持ってくるべきだった、と思った。そこで俺は気を引き締め、ハンドルに手を掛けて、時計に視線を移した。

 彼女を迎えに行くには早すぎるし、スケジュールの把握はしてあるから問題ない。そう考えたところで、昨日の件が頭の中に過った。

 本社に行くべきか否か。通常であれば、必要な事は直接連絡が来る。時間帯的に来てもおかしくはない。そこで俺は昨日の件を整理し、提示すべき物を思い付いたが、先に本社に行こうと車を走らせて行った。

 駐車場に車を停めてから、本社の正面玄関に向かっていると、清掃員がガラス窓を拭いていた。その横には見覚えのある姿があって、清掃員と一緒になって、ガラス窓を拭いていた。

「社長、何してらっしゃるんですか」思わず俺はそう声を掛けた。

 すると、社長は直ぐに振り返り、満面の笑顔を見せてから、口を開いた。

「何って、見れば分かるだろ。それより、時間あるかい? 少し話が聞きたい」

「承知しました。お付き添いします」俺はそう応え、その場で待っていた。

 社長は丁寧に片づけ、清掃員に声を掛けてから、俺の隣に並び、背中に軽く手を添えて促した。
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