想定外につき、対処不要
 本社を出てから、車に乗り込み、彼女の家まで少し急いで車を走らせた。多少の余裕はあるが、渋滞に巻き込まれると厄介だ。そう考えて、俺は裏道のルートを浮かべながら、彼女の家の正面玄関前に車を静かに停めた。辺りを見回してから、運転席を抜け出したところで、彼女がこちらに向かってきた。

「おはよう、木崎」

「おはようございます。足元に気をつけて……」そう言いながら、俺は周囲を警戒しつつ、ドアを開いて、彼女の行動にも気を配った。

 すると、彼女はふと足を止めて、俺のほうを見てきた。

「何か有りましたか?」俺が尋ねると、彼女は目を伏せるようにして、後部座席に乗り込んだ。

 その一瞬の横顔が、少し具合悪そうに見えた。だが、止める間もなく、既に彼女は座席に身体を深く預け、前を見据えていた。俺は彼女の様子を窺いながら、運転席に乗り込み、ハンドルを握って、車を走らせた。

 赤信号で止まる度にバックミラーで彼女を見たが、口を開く様子も無かった。俺は現場に向かいながら、着いたら先に監督に撮影を早めに切り上げたい事を伝えようと考えていた。

 そして、現場に入ると、彼女はメイク担当や衣装担当に連れられて行った。着替え終えた後に、現場に戻ってくると、そのまま撮影の中に溶け込んで行った。

 やはり、おかしい。そう思い、俺は隙を見計らって、監督の元に向かった。直ぐに声を掛けて、事情を伝えると、監督から夕方までに終わらせると言われ、俺は軽く胸を撫で下ろして、昨日の場所に戻って佇んだ。

 そこで時計を見ると、夕方までには時間が有り、一旦自宅に帰ろうと考えた。彼女の事は気掛かりではあるが、眼鏡が無いと、どうにも落ち着かなかった。辺りを見回した後で、一呼吸してから、現場を抜け出した。

 自宅に着いて、洗面所に向かい、コンタクトを外した。直ぐに眼鏡を掛けたところで、漸く自分を取り戻した気になり、軽く首を振った。それよりも彼女の事を先に考えなければ、と思い、洗面所から抜け出した。そこから寝室に向かい、クローゼットからパーカーを手にし、扉を静かに閉めた。

 彼女はいつものパーカーを着て無かったし、身体を冷やすことは大敵だ。今後の撮影にも支障が出る。スケジュールの調整は出来るが、さすがに体調の程度までは判断出来ない。

 とにかく、現場に戻って、彼女の様子や動向に目を向けることが先決だ。俺はそう切り上げて、自宅から出ると、車に乗り込み、現場に急いで車を走らせて行った。
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