想定外につき、対処不要
 それから3日ほど、撮影が立て込んでいたが、その間に指輪を購入したり、役所に届けを取りに行ったりと忙しなく動いていた。そして4日目に漸く休日が取れて、その日の朝に彼女からメールでデートに誘われた。そのメールにはどこかの地図が添付されていて、そこに来てほしいと記されていた。

 いきなりの提案に正座をして考える暇もなく、クローゼットからカジュアルな服装を選んで、身なりを整えてから、部屋を後にした。

 車に乗り込み、メールに添付された住所を頼りに、車を走らせて行った。自宅から郊外を抜け、見えてきたのは閑静な住宅街だった。綺麗な家が立ち並ぶ中、少し大きめの真新しい住宅の前で彼女は立っていた。

 そこで俺が車を停めると、彼女が近づいてきて、運転席の前で足を止めた。直ぐに窓を開けると、彼女が口を開いた。

「右側の車庫開けてあるから、使って」

 俺は彼女の指示通りに車庫に車を進めると、もう一台停められるスペースがあった。まさかと思いながらも、車を停めてから、外へ抜け出し、彼女の元へと急いだ。しかし、追いつくことが出来ず、華奢な身体が家の中へ吸い込まれるように入って行った。

 そして、俺が家の中に入ると、彼女が玄関先の上がり框に立って、こちらを見て軽く笑った。

「おかえりなさい。柊ちゃん」

 いや、待て。何だ今のは……。

 彼女に目を向けると、俺のほうを見て、軽く舌を出して、直ぐに引っ込めた。

 思わず、口を開きかけて、苦笑いをした。でも、彼女が嬉しそうな顔で見てくるから、俺も口角を上げて応えていた。

「ただいま、璃乃……」そう言うと、彼女は少し照れくさそうにして、手を差し出した。

 俺はその手を取り、自然に口にした。

「いつ建てたんですか?」

「今年の初めくらい」

 そこから二人で家の中を見ながら、時折立ち止まって、話をしていた。リビングから緑の芝生が広がる庭が見え、階段から踊り場を抜けて続く廊下の両脇には、部屋が二つずつあった。寝室の横にウォークインクローゼット、その正面には客室と子供部屋まで予定されていた。

 再びリビングで足を止めると、彼女が俺のほうを向いて、口を開いた。

「私は嫁になって、一生を添い遂げる。君は、これからも傍に居てください」

 その言葉に俺はポケットから指輪の箱を出して、彼女の手を取り、静かに嵌めながら言った。

「僕は、君を、愛すことを、誓う」

 すると、彼女は泣きそうな目をしながら、笑顔を繕って言った。

「キザ、き」

 俺は言葉に被せるように、彼女を引き寄せて、強く抱きしめた。
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