想定外につき、対処不要
「ねぇ、木崎」声が聞こえたと同時に、軽く身体を離すと、彼女の口が開いた。

「新婚旅行、どこにする?」

 俺は細い指を手に取り、親指で撫でながら答えた。

「君の行きたい場所なら、どこにでも付いて行きます」

「じゃあ、温泉、とか」明るく返してきた声に、俺は軽く頷き、彼女を見て返した。

「では、良い宿を探しておきます」

 すると、彼女は少し考えてから、こちらを見て笑い、思いついたように言った。

「露天風呂がある所がいいなぁ」

「承知しました」そう返したところで、彼女と目が合い、その口が開いた。

「一緒に入ろうね」

 それはダメだ。いくら夫婦と言っても、全身を見るなど許されることではない。いや、見なければいい話だ。そう思い、静かに返した。

「考慮しておきます」

「どうして?」

 彼女は止まることを知らない。そのことを俺は漸く理解した。
しかし、なぜだ。風呂に入るという目的があるとしても、俺の思考は鈍る。それだけは阻止しなければならない。

「僕が居ると窮屈ですし……」

「それの何がいけないの?」

 やはりダメだ。いくら理由を並べても、必ず止められてしまう。考えろ、俺。

 そこで、彼女がおもむろに手を伸ばし、俺の眼鏡を取り、「じゃあ、こうしたら恥ずかしくないでしょ?」と言って、ベッドの隅に置いた。

 そして、彼女の視線がこちらへ向くと同時に、俺は口を開いた。

「外しても、見えてますよ」

 そう言った時、彼女は息を止めたように、俺を見たまま、瞬きを繰り返した。

 俺は彼女の手を引き、目を合わせて言った。

「試してみますか?」

 彼女の口が微かに開いたと同時に、俺は唇を深く求めて、その身体を押し倒した。

 柔らかい肌を指先でなぞり、唇を耳元まで這わせて、甘噛みするように囁いた。

「愛してる」

「柊介……」

 艶かしい声が、衝動を掻き立て、俺は何度も名前を呼んだ。

 その度に彼女も応え、唇も深く重なった。

 汗ばんだ身体と、熱い吐息が混ざり合い、激しさが増していた。

 互いに求め合い、次第に愛しさを感じ、手を探して強く絡めた。

 それは、とても官能的な夜だった。
< 28 / 30 >

この作品をシェア

pagetop