氷の外科医
すべての処置が無事に終わった瞬間、裕人の中でピンと張り詰めていた糸が切れた。


手袋を脱ぎ捨てると、寄せてきた丸椅子にへなへなと腰掛け、美雨の手を両手で愛おしそうに包み込む。


その額には冷や汗が浮かび、手はかすかに震えていた。



「本当に……生きた心地がしなかったぞ……。
子供を助けたのは偉いけど、美雨まで怪我したら意味ないだろ……」



「ごめんなさい……っ。
でも、目の前で落ちそうだったから……」



「分かってる。そういうことができる優しい奴だってことは……。

けど、驚きすぎて俺の心臓が止まりそうだったんだぞ」



さっきまでの完璧な医師像はどこへやら、情けない顔で全力で心配し、彼女の手に頬を寄せて甘える裕人。



カーテンの陰からその一部始終を見ていた佐藤が、長谷川の袖を必死に引っ張り、ひそひそ声で呟いた。



「長谷川さんっ長谷川さんっ!
……僕、夢でも見てますか? あの氷のように冷たく冷静な黒崎先生が……デレデレの甘やかしモード全開なんですけど!?
僕、採血すらさせてもらえませんでしたし…」

 
「しーっ。聞こえちゃうでしょ!
……でも、本当にびっくりね。あんなに余裕のない顔して焦る黒崎先生、私も初めて見たわ…」



普段との圧倒的なギャップに目を丸くしながらも、膨らむ好奇心を抑えきれず、二人ともその場を離れられないまま固唾をのんで見守り続ける。


そこへ裕人がふと我に返り、耳を真っ赤にして振り返った。



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