ソルが降る日
 ソルは、動かない。ミリの身体は、ソルの腕の中で硬直し、反転した視界のまま、恐る恐る顔を上げる。

「……ソルさん?」

 至近距離にあるその表情は、痛みを示すものでも、緊張でもなく、ただ、整っていた。そして、近い……。

 ミリは、ソルの瞳に宿る深い緑の光に吸い寄せられ、視線はソルの頬、首筋、腕へと向かう。ジレは綻び、シャツも裂けている。あるべきものを探すように、目を凝らすと、肌のはずの場所に光を含んだ層が一瞬、覗いた。

「ソル、大丈夫か、直撃しただろ!」

 遅れてジフンの声が届くと、時間が元の速さに戻る。ソルは視線を逸らし破れたシャツを手で押さえながら、ミリを放した。

「怪我はないですか? 僕も、大丈夫です。ただ、衣装は汚してしまいましたが」

 ソルの声はいつも通りだった。ジフンが近づき、ソルはその道を外れ、光の届かない位置へ一歩下がる。担当者は謝罪し体調を気遣う。一時、騒然とした現場も、機材の調整に向けて動きだした。

 ミリは立ち尽くし、頭の中で記憶を反芻する。

 血は、見えなかった。

 瞳の奥に、血ではない光だけがあった。
 
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