ソルが降る日
 その少し前、ソルは、廊下の影にいた。破れた服を押さえ、誰にも見えない位置で足を止めた。

 そっと、初めて右腕を確認する。大した損壊ではなく、痛みもない。外部からの打撃程度で痛みなどあるはずがなかった。

 すべきは、現場に戻らないことだけだ。

 あの時、「大丈夫です」で終わりにした自分の声と行動の記憶を、もう一度たどってみる。

 問題はなかっただろうか。いや、逸脱はない。損壊は軽微だ。やるべきことをしたに過ぎないはず。

 けれど、ミリを抱き寄せた時、視界が真っ白になり赤いノイズが走った。これを否定することはできない。

 特別な何かがあったはず……。ソルは踵を返し、光のない通路を進んでいった。

 そのころ、ミリはモニターの前で無意識に手を胸に当てていた。さっき、ソルに引き寄せられたとき、触れた彼の胸元。耳元をよぎった心拍音ではない何か。そして、光を含んだ層……

 現場は再開する。
 でも、同じ場所にソルはいない。
 それだけが、違っていた。
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