ソルが降る日
撮影が始まると、周囲のざわめきがおさまっていく。照明が入り、光がソルの輪郭をなぞり、満ちていく。すべての視線が、彼のもとに集まった。
きれいだ。ミリは音を拾う前に、また、そう思ってしまった。ソルの台詞が空間に触れる。思いを押しつけない、引き込もうとしない。まるで、空気そのものが彼の声を待っていたかのように、絡み合う。
調香師「ノア」は琥珀色の香水瓶に手を伸ばす。指先がガラスに触れる直前、演技でも計算でもない何かが潜んでいる気がし、ミリは無意識にフェーダーを指でなぞった。
「……忘れたい過去も、届かなかった祈りも」
「人生を進むための、一滴。――JOURNEY」
その瞬間、スタジオ全てのものが、息を止めた。完璧な沈黙。
ミリは自分の鼓動が少し遅れて戻ってくるのを感じた。あまりにも透明だ。だからこそ、ほんのわずかな違和感が残る。
昨日、抱き寄せられた瞬間に聞こえた、心拍とも機械音とも違う響き。けれど、触れたときの柔らかな感触、見つめられた深い緑の瞳は、人間らしさに溢れていた。
あの、腕から覗いた光だって、共演者の衣装のスパンコールか何かが、反射しただけだろう。ミリはそう自分に言い聞かせた。
きれいだ。ミリは音を拾う前に、また、そう思ってしまった。ソルの台詞が空間に触れる。思いを押しつけない、引き込もうとしない。まるで、空気そのものが彼の声を待っていたかのように、絡み合う。
調香師「ノア」は琥珀色の香水瓶に手を伸ばす。指先がガラスに触れる直前、演技でも計算でもない何かが潜んでいる気がし、ミリは無意識にフェーダーを指でなぞった。
「……忘れたい過去も、届かなかった祈りも」
「人生を進むための、一滴。――JOURNEY」
その瞬間、スタジオ全てのものが、息を止めた。完璧な沈黙。
ミリは自分の鼓動が少し遅れて戻ってくるのを感じた。あまりにも透明だ。だからこそ、ほんのわずかな違和感が残る。
昨日、抱き寄せられた瞬間に聞こえた、心拍とも機械音とも違う響き。けれど、触れたときの柔らかな感触、見つめられた深い緑の瞳は、人間らしさに溢れていた。
あの、腕から覗いた光だって、共演者の衣装のスパンコールか何かが、反射しただけだろう。ミリはそう自分に言い聞かせた。