ソルが降る日
12 正しい距離なら
ジフンは少し離れた場所から、現場全体を眺めていた。照明の当たり具合、スタッフの動き、音の流れ。何度も立ってきた慣れ親しんだ場所だが、最近一つだけ、目が離せない人がいる。
音響卓にいる、ソ・ミリ。決して派手な立ち居振る舞いではないのに、忙しなく動く現場の中で、不思議と目に入る。すらっとした長身で動きは無駄がない。
忙しい時も目が合えば、一度立ち止まって微笑みを返す余裕もある。真面目でどこまでも気負っていないその姿に、ジフンは思わず口元を緩める。
こういう人は、放っておけない。そう思いながら、視線は彼女の背中を追っていく。
スタジオの中央では、ドラマ『JOURNEY』の本番テイクが佳境を迎えている。ソルの発する「人生を進むための、一滴」という台詞が、静寂の中に響き渡った。
現場の誰もがそのカリスマ性に呑み込まれ、息を止めている。自分も目を向けてしまう。
正直に言えば、わかっていた。自分とは決定的に何かが違うのだ。存在感も場の引き寄せ方も。生まれ持った何かが正解そのもののように美しすぎる。
ふと、ミリの横顔がモニターの光に照らされるのが見えた。彼女は、まるで何かに取り憑かれたように、あるいは壊れ物を扱うように、硬い表情でソルを見ている。指先がフェーダーの上でかすかに震えているのを、見逃さなかった。
そのままじゃ、息が詰まるぞ。カットがかかった瞬間、迷わずに彼女の方へ歩み出した。あえてソルから視線を外すように、ミリの隣という自分に許された位置へ。