ソルが降る日
 今日はドラマ本編の撮影と並行して、作品の名を冠した香水『JOURNEY』のCM撮りも行われていた。

 小さなシャンデリアの光はミステリアスでいながら、やわらかな光を放ち、琥珀色の香水瓶に輝きを与えていた。周囲のざわめきが引いていくと、照明の光も現場の視線も、ある一人の俳優に向けられていた。

 ミリは集音マイクを傍らに立てかけた。

 彼の長い手足、均整の取れた後ろ姿。スタッフに呼ばれ振り向くと、髪が揺れ、高い鼻梁が覗く。画の中にすっと収まった。

 アメリカから戻って間もないミリは、ユ・ソルという名前をスタッフ同士の会話で知った。韓国エンターテインメントを代表する、俳優であり歌手らしい。

 セットの中でソルは香水瓶を持ち、カメラはその視線を追っていた。昨日も昼夜二回のステージがあったはずなのに表情は軽く、声にも疲れは残っていない。周囲の音は遠のいていくのに、ソルの存在だけが鮮明に立ち上がっていった。

「へえ、すごい」

 思わず言葉が出た。発声の次元が違う。どんなトレーニングを受ければ、あそこまでになれるのだろう。

 ソルが白くしなやかな腕を伸ばし、香水瓶を取ると、透き通った声が香りのように立ち上がり流れていった。ミリの指がレベルメーターの上で、止まった。

 さっきの音、彼だ。

 きれい。雪みたい……

 カットがかかり、現場にざわめきが戻る。ミリはブースに戻り、ヘッドホンをつけた。

***

< 4 / 30 >

この作品をシェア

pagetop