嘘つきシンデレラ〜地味男を選んだら、俺様御曹司に溺愛されました〜
「あ……もう終わりなんですね」
つい残念そうな声になってしまったのは、勘違いだと思いたい。
「じゃあ……私はこれで」
司会者の誘導に従って参加者たちが移動を始め、星南もその流れに加わろうとした。
──そのとき。
「……待って」
振り返ると、男は星南にまっすぐな視線を向けていた。
「名前、聞いてなかった」
「あ……」
そういえば、お互いに名前すら知らないまま話していた。
それでも全然気にならなかったことが、すごく不思議だ。
「緒方星南です」
「星南……」
男がその名前を口の中で転がすように呟く。そして──
「俺は一宮だ。一宮朔夜」
(朔夜……さん)
心の中で、その響きを繰り返してみる。
綺麗な名前だな、と思った。星のつく自分の名前と、どこか似ているように感じたからかもしれない。
「素敵な名前ですね」
気づけば、そんな言葉が口からこぼれていた。
「それじゃあ」
司会者に促され、星南は最後に会釈をしてその場を離れる。
もう一度だけ振り返ろうかと思ったけれど、やめた。
だから、気づかなかった。その背中を、眼鏡の奥の三白眼がじっと見つめていることに。