今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
「外ではなんですし、唯ちゃんの負担になる。まだ開店前なので、店内を使ってください」

「ありがとう」

 優希君に促されて、蓮さんがお店に入っていく。私もそれに続き、端のテーブルに蓮さんと向かい合わせに座った。

「どうぞ」

 お水を出してくれた裕樹君お礼を言い、あらためて蓮さんと向き合う。
 彼はすぐには話しださなかったため、じりじりと気まずい時間が続いた。

 緊張に耐えかねて、ひとまずグラスを手に取り喉を潤わせる。

「さっきの彼は?」

 グラスを戻したところで、唐突に問いかけられる。蓮さんの視線を追って、裕樹君の入っていた方を見つめた。

「このお店を営む夫婦の息子さんで、親友の弟の裕樹君ですけど……?」

「君と、特別な関係にあるのでは――」

「そ、それはないですから。彼は、私にとっても弟のような存在なので」

 とんでもない勘違いを、慌てて否定する。
 表情は大きく変わらないものの、蓮さんは明らかに安堵している。目もとの鋭さがわずかに緩んでいた。

「それで、今日はどんなご用件で?」

 恐る恐る、こちらから切りだした。
 蓮さんはじっと私を見つめ続けてくるから、気まずくなってくる。

「唯。君を、連れ戻しに来たんだ」

「……え?」

 待って。蓮さんは今、なんて言った?

「唯は、俺の大切な婚約者だから」

 彼から視線を外せないまま、呆然とする。

 繰り返し蓮さんが口にしたのは、間違いなく私の名前。
 これまで蓮さんをはじめ、お義母様や講師の前では〝藤沢舞〟で通してきた。だから、彼から〝唯〟という名前が出てくるはずがない。

 まさか舞は、早々に嘘がバレるようなとんでもない振る舞いをしたのか。

 入れ替わりに加担した私にも、責任の一端はある。蓮さんは、私を咎めるためにここへ来たのかもしれない。
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