今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
「あ、あの。ひとつだけ、まだ話せていないことがあって……」

「なにかな?」

 彼の瞳が、わずかに揺れる。何事にも動じなさそうな蓮さんでも、不安になることがあるのだと妙に心が落ち着いていく。

「実は私……妊娠しているんです」

 間近にあった彼の目が、大きく見開かれる。

「も、もちろん、蓮さんとの子で」

 彼がなにも言わないから、疑われてしまうかもと慌てて付け足した。

「ああ、唯」

 強張っていた彼だったが、次第に笑みが広がっていく。
 それから手を放して、私を抱きしめた。

「疑ってなんかいない。君が誠実な女性だと、ちゃんとわかっている」

 彼の温もり、じわじわと伝わってくる。

「君に大変な思いをさせてしまったことは、本当に申し訳なかった。それなのに俺たちの子どもができたという事実を、たまらなくうれしいと思ってしまう」

 蓮さんの声が掠れているのは、緊張からなのか。

 彼がお腹の子を受け入れてくれていたことに、再び涙が滲む。

「気づけなくて、悪かった」

「私が、言わなかったから」

「言えなかった、の間違いだろ? 藤沢屋のことでただでさえ不安だっただろうに、結果的にひとりにしてしまって、すまなかった」

 再び首を振る。

「でも、蓮さんはこうして迎えに来てくれた」

 涙で声が震える私を、蓮さんがもう一度抱きしめる。

 しばらくして私が落ち着いたところで、そっと体を離された。

「お腹の子どもごと、必ず幸せにする。だから、俺と結婚してくれないか?」

 真っすぐなプロポーズに、息をのむ。

「よ、よろしくお願いします」

 今度こそ、迷う理由はなかった。

 それから蓮さんは、どうしてここがわかったのかを教えてくれた。

「唯の友人が、教えてくれた」

「藍が?」

「ああ。唯のことは自分が預かると。迎えに来るのが遅くて、君がほかの男に靡いても止めないがとも言われてしまったけどな」

 そう言いながら、彼は裕樹君のいる厨房の方をチラッと見る。

「間に合ったようで、よかった」

「蓮さん以外の誰かを好きになるなんて、私には考えられないのに」

 思わず漏らした本音に、彼は笑みを浮かべた。
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