今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
 それ後、私たちは藍の両親と話をさせてもらった。

「唯ちゃんがいなくなると思うと、寂しいわねぇ。裕樹のお嫁さんになって、ずっとうちにいてくれたらいいのにと思っていたのよ」

「すみませんが、唯を手放すことはできないので」

 冗談めいたお母さんに、蓮さんが真剣な調子で返す。

「唯ちゃんが幸せなら、私たちはそれでかまわないわ。もともと藍からは、すぐに旦那さんになる人が迎えに来るって聞いていたしね」

 私の知らないところで、藍はいろいろと動いてくれていたらしい。今日この場にいない彼女には、あらためてお礼を伝えないと。

「短い間でしたが、本当にお世話になりました。ここで働けて、私、すごく楽しかったです」

「そう言ってもらえると、うれしいね。今度は客として、遊びに来てよ」

 お母さんの隣で、お父さんもうんうんとうなずいてくれた。

 その日のうちに、私は蓮さんに連れられてマンションに戻ることになった。

「唯の姉のことだが」

 乗り込んだ車の中で、蓮さんが重い口調で話す。

「舞がなにかご迷惑を?」

「まあ、想定の範囲内の行動だったが。唯の名前を騙ったり、高宮の名前を出して遊びまわったりしていたことは把握している。

「も、申し訳ありません」

 私の名前については知っていたが、まさか高宮家の名前を出すなんてありえない。

「いや、唯が謝る必要はないし、君を咎めるつもりもない。唯を迎えに行く前に、両家の親を交えて話をした。彼女の物言いは散々で、さすがにもう付き合いきれない。俺も両親も、仕事上のつながり以外で藤沢家に関わりは持たないと決めた」

「当然です」

 おそらく、舞の振る舞いは〝散々〟なんて軽いものじゃなかったはず。彼女の気性の激しさは、私もよく知っている。

「唯は、どうしたい? この件について、俺は君の行動まで制限するつもりはないんだ」

「私……?」

 ハンドルを握ったまま、蓮さんがうなずく。
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