今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
 何人目かの講師が辞退を申し出たところで、両親はついに匙を投げた。おかげで、私たちはなにひとつ身につけられていない。

『まったく、唯には困ったものだ。同じ双子だというのに……』

『おばあ様が、甘やかしすぎたのかしら』

 両親からの視線に耐えかねて、目を逸らす。

『私じゃないのに……』

 そう言った私を、ふたりは人のせいにしてはいけないと咎めた。
 言葉にこそしなかったが、どうして唯はできが悪いのかと、両親はあきらかな非難の目を向けてきた。

 その後も、『レッスンを受けたい』と何度か訴えたが、当然、受け入れられることはなかった。

 苦しいばかりの環境から逃れるように、実家とは無関係の会社に就職した。それも両親の不興を買っているのかもしれない。
 いっそのこと家を出てしまえばよかったが、行動を起こそうとすると『唯が離れちゃうなんて、寂しすぎる』と舞が両親に泣きつく。きっと、身代わりがいなくなることが嫌だったのだろう。

 そうとは知らない両親に、『双子なんだから、仲良く実家で暮らせばいいだろう』と引き留められてしまう。そこで私が折れたのは、両親の背後で舞があの目を向けていたからだ。

 私がなにを言っても聞いてもらえないのだと、いつの頃から希望を口にすることはやめた。

「私ね、週に何回かカルチャースクールに通ってレッスンを受けてるのよ」

「本当に?」

 すぐに反応した私を、舞がくすっと笑う。

「唯ったら、相変わらず馬鹿ね。そんなわけないでしょ。そういう設定よ」

 嘘に嘘を重ねる舞を、私では止められない。
 私が両親に彼女の本心を話しても、信じてはもらえないだろう。

「私にはね、花嫁修業なんて必要ないの。美人ってだけで、ある程度のことはどうとでもなるのよ」

 舞は、彼氏が途切れずにいるようだ。外見だけでなく、明るい性格も人を寄せ付けるのかもしれない。そこの彼女は、自信を持っているらしい。
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