今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
「ほら、唯。あなたもう一度レッスンを受けたいって、何度も言ってたじゃない?」

「え、ええ」

 大人になってから、いくらでも学ぶ機会はあった。
 けれど本当に求めていた頃にさんざん無駄だと言われ続けて、もう手を伸ばそうとは思えなくなっていた。

 腰を浮かせた舞が、私にずいっと顔を近づけてくる。思わずのけ反りそうになったが、なんとか踏みとどまった。

「だからね、優しい姉の私が、その機会をあなたに譲ってあげることにしたの」

「そ、そんな言い分が、通るわけがないわ」

 舞を否定しながら、胸の奥で捨てたはずの期待が疼きだす。
 今からでも大好きな祖母のような女性になれるだろうかと、懲りずに考えてしまった。

 でもそれは、花嫁修業の場でなくていいものだ。

「パパもママも、それでいいって言ったわよ。それどころか、心を入れ替えてもう一度ちゃんと学びたいって言った唯を、少しは見直したみたい。よかったじゃない」

 私から体を離した舞が、小ばかにしたように笑う。

「信じられない……」

 対外的な、それも藤沢屋の行く末に関するところでそんな大嘘をついていいわけがない。

「無理だから。ダメに決まってるじゃない」

 小声でつぶやく私に、舞が顔をしかめる。

 藤沢屋に勤めている社員の行く末を考えたら、そんな軽はずみなことはできない。

「無理でもダメでもないの。これは、決定事項よ。いい、唯」

 ギロリと睨みつけられて、足が竦む。

「花嫁修業はあんたがこなして、それが終わる頃に私と入れ替わるから」

 そう宣言した舞は、身じろぎできずにいる私の横を抜けて部屋を出て行った。



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