今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~

身代わりの婚約者

「あらためまして、藤沢舞です。どうぞ、よろしくお願いします」

 声が震えないように、動揺を悟られないように。密かに手をきつく握りながら、なんとか笑みを浮かべて頭を下げる。

「ああ」

 舞が出向いた顔合わせから半月。一月も下旬に差し掛かった今日から、花嫁修業が開始される。

 まずやってきたのは、婚約者になった蓮さんがひとりで暮らすマンションだ。これから私は、ここで彼と暮らすことになる。
 写真で見る限り整った容姿の人だと思っていたが、実物はさらに素敵で目を奪われそうになる。

 ただ私に向けた彼の鋭い眼差しは、まったく緩む気配がない。歓迎されていないのだと、それだけでわかってしまう。
さらに小さく眉を顰められ、早くも怖気つきそうになった。

 まさか、もう入れ替わりがバレている?
 隠し事をしている後ろめたさに、そこまで想像して身を小さく震わせる。

 少し話しただけで、別人だとわかるはずがない。過剰な怯えは相手になにか疑われるかもしれなず、彼から視線を外さないように耐えた。

「こちらへ」

 ようやく発せられたひと言に、ほっとする。

 広々とした玄関の、できるだけ端で靴を脱ぐ。それを整えて立ち上がると、こちらを見る蓮さんと視線が合った。
 なんだか、ものすごく見られている。
 ただでさえ緊張している私は、余計に動きがぎこちなくなってしまう。

 きっと、警戒されているのだろう。いずれ結婚する相手だとしても、顔を合わせるのは今日で二度目だ。といっても、私とは本当に初対面なのだけれど。

 蓮さんに続いて、室内へ進む。

 駅に直結するこのマンションには、住人だけが使えるフィットネスやスパ、カフェがあるという豪華さだ。
 通されたリビングはとにかく広く、家具や家電は高級なものだと見ただけでわかる。
 室内は濃いグレーで統一されて、スタイリッシュな雰囲気にまとめられている。乱れた箇所はどこにもなくて、なんだか生活感を感じられない。彼の見た目のイメージ通りの、温もりを感じさせない部屋だ。
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