今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
「座って」


「はい」

 リビングの奥にある、ダイニングのテーブルに腰を下ろす。

「どうぞ」

 飲み物を用意してもらえるとは思わなかったが、ここで遠慮するのは不作法だろう。

 右手を伸ばしかけたところでハッとして、一度引っ込める。静かに深呼吸をして、あらためて左手でカップを取った。

 飲み終えて顔を上げると、感情の読み取れない顔で蓮さんが私を見ていた。さっきも感じたが、まるで観察されているみたいで居心地が悪い。

「勘違いしないように、先に言っておく」

「は、はい」

 私がカップを戻したタイミングで、彼が切りだした。

「この縁談に、恋愛感情は必要ない。俺は妻という存在と、後継ぎが必要なだけだ」

 冷たく突き放されても、私がとやかく言う権利はない。
 舞には『私の立場を悪くしないように』と言われているが、この調子ではそれ以前の話になりそうだ。日常的な会話すら、拒否されるかもしれない。

 私がうなずくのを確かめて、彼はさらに続けた。

「俺や高宮家の邪魔をしなければ、どう過ごしてくれてもかまわない」

「わかりました。あっ、できれば家事はすべて任せていただけると――」

 そう言いかけ私に、彼は不快そうに肩眉を上げた。

「親から、俺に媚びろとでも言い聞かせられているのか? そんなことで会社同士の関係は左右されないし、財産目当てなら期待しないことだな」

「そ、そんなつもりは……」

 来て早々に、彼を怒らせてしまったらしい。
 肩を揺らして、顔をうつむかせる。その態度がさらに彼をイライラさせたのか、正面から重いため息が聞こえてきた。

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