今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
 自分用の簡単な朝食を用意しながら、ため息を吐く。

 この後いよいよお義母様に会うと思うと、上手くやれるのかと怖くなってきた。

『唯は、子ども頃に着付けのレッスンを投げ出したことを後悔していただろ? もう一度、習いたいと何度も言っていたくらいだし』

 入れ替わりの話を舞から聞いてすぐ、父に確認をしている。そのときに言われた言葉は、信じられないものだった。

『舞もああ言ってくれているんだ。これを機に、唯は高宮家で学んでくるといい』

 高宮家に対するあまりにも失礼な発言に、呆気に取られる。
 格上の相手との縁談だというのに、父はなにを考えているのか。

『舞は本当にレッスンに通っているの?』

『姉を疑うのか?』

 なんとか尋ね返した私に、父は不快感をあらわにした。

 舞が日頃からレッスンに通っているという嘘も、父は疑いもなく信じているようだった。あくまで彼女は親切心から入れ替わりを申し出てくれたのだと、恩着せがましさすら感じたほど。

 一年後に舞が嫁いだとき、学んだはずのことがなにひとつ身についていないなんて発覚したらどうなるのか。

 彼女が言い出したことだから、その責任は自分でとるべき。そう思うが、断れなかった私だって共犯だ。

 罪悪感に押しつぶされそうになる。

 せめてここにいる間は、蓮さんや高宮家の人たちに対して誠実でありたい。
 騙しておいて言えることではないけれど、蓮さんが少しでも快適に過ごせるよう、自分にできることを探していこうと心に決めた。




< 17 / 111 >

この作品をシェア

pagetop