今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
 蓮さんの実家は来客が多いと聞くけれど、それも納得の広さだ。

 すれ違った何人かの使用人は、私に丁寧に頭を下げていく。それに同じように返していると、お義母様が振り向いて見ていた。

 部屋に通されて、促されるまま席に着く。フローリングの部屋で、テーブルや椅子などは藤の家具でそろえられている。その様子が、祖母と過ごした部屋を思い出させた。おかげで緊張はしているものの、少しだけ肩の力が抜ける。

 懐かしさを感じながら、大きく開いた窓の向こうに目を向ける。外は一面に和風の庭が広がっていた。

 この家は、中庭を囲むように円形に作られているようだ。
 庭には、もみじや南天など複数の木が植えられている。それらの枝の角度すら計算されているのかと思うほどすべてがおしゃれで、目を奪われてしまう。

「素敵なお庭ですね」

 お茶を出してくれた使用人が退室したところで、思わず声に出していた。

「ありがとう。私も、この庭を気に入っているの」

 淡々とした調子ではあるものの、そう返してもらえたことにほっとする。

 私がお茶を口にするのを待ち、お義母様が話し始めた。

「今後のお話をさせていただくわ」

「よろしくお願いします」

 入れ替わりがバレてはいけないと、あらためて気を引き締める。

「舞さんには、曜日ごとに様々なレッスンを受けていただきます」

 たくさんのことを学ばせてもらえるのは、私にとって本当にありがたい。騙しておいて図々しいとわかっているが、抑えきれない期待に高揚する。

「ところで、あなたはお着物の着付けができないと聞きましたが……?」

 藤沢屋の娘が、どうしてそんなことも身につけていないのか。非難するような視線を向けられて、たまらず身を縮こませた。

「すみません。蓮さんの隣に立つのに恥ずかしくないよう、ここでしっかり学ばせていただきます」

 言い訳の仕様もない。
 頭を下げた私に、お義母様は小さくなずいた。
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