今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
 翌日から、本格的に花嫁修業が始まった。
 初日の今日は、私がずっと学びたかった着物の着付けのレッスンだ。

「よろしくお願いします」

「こちらこそ、お願いしますね」

 教えてくれるのは、母よりも少し年上の女性だ。にこりと微笑む講師に、優しそうな人だとほっとする。
 初日だからか、部屋の隅にはお義母様も控えている。見られていると思うと余計に緊張するが、とにかく精いっぱいがんばるのみ。

「まずは、私が舞さんに着せてみせますね。着付けは順番が大事なので、よく見ていてください」

「はい」

 インナー姿になり、姿見の前に立つ。

「舞さんは首がすっと長くてなで肩なので、着物がとっても似合いそうですね。腰がちょっと細いので、タオルを入れましょう」

 ひと言も聞き洩らさないよう、集中する。

「着崩れを防ぐために、凹凸のない形にしていきます」

「その方が、帯も綺麗に結べそうですね」

「ええ、そうです」

 初心者丸出しの発言だったと、口にしてから気づく。
 でも先生は、それににこやかに返してくれた。

 部屋の隅にいるお義母様は、なにも言わない。どう思われているのだろうかと不安になるが、それよりも今はレッスンに集中だ。なにひとつ見逃さないよう、鏡越しに講師の動きをじっと観察する。

「これで補正は完成です。次は長襦袢を羽織ります。背中の中心とこの縫い目をきっちり合わせて……」

 着付けていく合間で疑問に思ったことを尋ねると、わかりやすく教えてもらえる。
 背後の様子もしっかり見せてもらいながら、ゆっくりと着付けていく。

「はい、できましたよ」

 鏡の前でゆっくりと一回転して、状態を確かめる。
 こうして着物を身につけると、自然に姿勢がしゃんと伸びる。

「ありがとうございます。私の祖母が普段から着物で過ごす人だったので、和装には憧れていたんです」

「まあ、素敵なおばあ様なんですね」

 そんなふうに言ってもらえると、うれしくて笑みが浮かぶ。

「私も早く、自分で着られるようになりたいです」

「これから、しっかり覚えていきましょうね」
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