今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
 その日の夜。帰宅後の蓮さんを出迎えようと、習ったことのおさらいをしながら起きて待っていた。

 玄関から物音が聞こえてきたのは、昨夜よりも遅い時間。慌てて顔を出すと、彼はすっと目を細めた。

「おかえりなさい」

「……ああ」

「あ、あの、食事――」

「今夜も読書か? そうでないのなら、わざわざ俺を待っている必要はない」

 遮るようにそう言い、私の横をさっさと通り過ぎていく。

「食事は必要ない。外で済ませてきた。君だって疲れているだろ? 俺にかまわず、休んでいればいい」

 落ち込みかけた気持ちも、最後の言葉で浮上する。

 不機嫌層ではあるものの、彼から激しい怒りの感情は伝わってこない。

 けれど彼が選んだ言葉は、気遣いの気持ちが込められている。少なくとも、私にはそう思えた。

「お疲れさまです。お食事が必要なときは、言ってくださいね」

 チラリとこちらを振り返った蓮さんだったが、それ以上はなにも言わなかった。

 一緒に暮らすのなら、少しでもよい関係を築きたい。そう思うのは、舞のためじゃない。蓮さんの負担を減らしたいといからだ。
 私を受け入れられないとしても、存在に慣れてくれたら……というのは高望みだろうか。





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