今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
 準備を終えて、鏡の前に立ってみる。
 似合っているような、いないような。どうにもちぐはぐな感じになってしまうが、見苦しいというほどでもないだろう。

 再びため息をついて、のそりと部屋を出る。

 せっかく出かけるのだから、習っていることの復習に使えるような本を見に行こうか。マンションでも練習できるように、いろいろと道具をそろえておきたい。ただそれについては物のよしあしもあるだろうから、お義母様に相談した方がいいのかもしれない。

 不格好な服装にため息を吐いてばかりいたが、目的を考えるとちょっとだけ気分が浮上する。

 黒いショートブーツに足を入れたそのとき、背後から聞こえた物音にギクリとする。振り向くと、蓮さんが立っていた。

「出かけるのか?」

 彼が在宅だとは、気づいていなかった。ただスラックスを履いているし、今日も出勤するのだろう。

「あ、えっと……」

 その鋭い視線が私の全身を行き来するから、居心地が悪くなる。

 とんでもない服装だったかもしれないと、あらためて恥ずかしくなってきた。
 咄嗟に、開いていたジャケットの前を握り合わせる。それでミスマッチな服装をすべて隠せるわけではないが、気持ちの上では多少マシ。

「少し、お買い物をしてこようかと。早めに帰って来るつもりですが」

 眉を顰めた彼に、咎められるのだろうかと身構えた。

「……そうか。好きにすればいい」

 けれど、発せられた口調にそんな様子はない。
 ほっとすると同時に、彼は私にそこまでの興味がないのだろうなと納得し、ちょっとだけ残念に思った。

「いってきます」

 今さら部屋へ引き返すこともできないから、出かけるしかない。
 そっと息を吐き出して、マンションを後にした。



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