今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
花嫁修業が始まって二カ月ほどが経つが、蓮さんとの関係にそれほど進展はない。しつこくならないようにしつつ、私から挨拶程度の声かけをするくらいだ。悪化していないだけましというもの。
最近の私は、蓮さんほどではないものの忙しくしている。
レッスンは順調に進んでおり、お義母様による書道の指導も何回か受けた。
『海外のお客様に書をプレゼントしたり、書いている様子を披露したりするのも喜ばれるの』
そう言いながら墨をするお義母様の姿は、凛としてかっこいい。
覚えることは多くて、働いていたときよりも大変かもしれない。でも学ぶことは好きだから、少しも苦にならない。
お義母様が選んだという講師は、穏やかで親切な人ばかり。初心者の私の質問にも、嫌な顔ひとつしないで丁寧に応えてくれる。
きっと人選にも心を砕いてくれたのだろう。ますますいい加減にはできないと、マンションに帰宅してからも練習や復習を欠かさない。
蓮さんのマンションは、リビングの一角に畳を敷いたスペースがある。彼にはあらかじめここを使わせてもらう許可を得ており、今夜も使わせてもらっている。
「もう十一時半か」
連日、蓮さんは遅い帰宅が続いている。
父から少し聞きかじったところによると、両家が縁づくことで様々な事業が立ち上げられるらしい。おそらく蓮さんは、その関連で仕事が増えているのだろう。
その苦労も、私たちの入れ替わりのせいで無駄に終わるかもしれない。破談にでもなったら様々な方面に大きな迷惑をかけると、想像するだけで怖くなる。
その危険をわかっていながら、舞の言い分に流された父の気が知れない。
もう何度も心の中で父らを非難してきたが、傍から見たら私も同類だ。両親や舞に、自分がもっと強く言えていたらと、思考が堂々巡りになる。
考え事をしていたら、傍らに置いていたスマートフォンの着信音が鳴りだした。メッセージを送ってきたのは舞だ。
【ちゃんとやってる?】
花嫁修業が始まった当初は、彼女から頻繁に連絡があった。
【バレないように上手くやるのよ】
【自慢したいから、あの男の写真を送ってよ】
彼女の身勝手な内容に、まともに返すのも嫌になる。舞がここまで来るとは到底思えないから、のらりくらりと躱し続けてきた。物理的な距離がありがたく、彼女に従順でなくても怖くない。
舞自身も、だんだん関心が薄くなってきたのだろう。最近は、連絡をしてくる頻度がすっかり落ちていた。
適当に返事をして、片づけをする。
ベッドに入った頃には日付が変わっていたが、蓮さんはまだ帰ってこなかった。
最近の私は、蓮さんほどではないものの忙しくしている。
レッスンは順調に進んでおり、お義母様による書道の指導も何回か受けた。
『海外のお客様に書をプレゼントしたり、書いている様子を披露したりするのも喜ばれるの』
そう言いながら墨をするお義母様の姿は、凛としてかっこいい。
覚えることは多くて、働いていたときよりも大変かもしれない。でも学ぶことは好きだから、少しも苦にならない。
お義母様が選んだという講師は、穏やかで親切な人ばかり。初心者の私の質問にも、嫌な顔ひとつしないで丁寧に応えてくれる。
きっと人選にも心を砕いてくれたのだろう。ますますいい加減にはできないと、マンションに帰宅してからも練習や復習を欠かさない。
蓮さんのマンションは、リビングの一角に畳を敷いたスペースがある。彼にはあらかじめここを使わせてもらう許可を得ており、今夜も使わせてもらっている。
「もう十一時半か」
連日、蓮さんは遅い帰宅が続いている。
父から少し聞きかじったところによると、両家が縁づくことで様々な事業が立ち上げられるらしい。おそらく蓮さんは、その関連で仕事が増えているのだろう。
その苦労も、私たちの入れ替わりのせいで無駄に終わるかもしれない。破談にでもなったら様々な方面に大きな迷惑をかけると、想像するだけで怖くなる。
その危険をわかっていながら、舞の言い分に流された父の気が知れない。
もう何度も心の中で父らを非難してきたが、傍から見たら私も同類だ。両親や舞に、自分がもっと強く言えていたらと、思考が堂々巡りになる。
考え事をしていたら、傍らに置いていたスマートフォンの着信音が鳴りだした。メッセージを送ってきたのは舞だ。
【ちゃんとやってる?】
花嫁修業が始まった当初は、彼女から頻繁に連絡があった。
【バレないように上手くやるのよ】
【自慢したいから、あの男の写真を送ってよ】
彼女の身勝手な内容に、まともに返すのも嫌になる。舞がここまで来るとは到底思えないから、のらりくらりと躱し続けてきた。物理的な距離がありがたく、彼女に従順でなくても怖くない。
舞自身も、だんだん関心が薄くなってきたのだろう。最近は、連絡をしてくる頻度がすっかり落ちていた。
適当に返事をして、片づけをする。
ベッドに入った頃には日付が変わっていたが、蓮さんはまだ帰ってこなかった。