今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
 翌朝、キッチンに向かうとダイニングに蓮さんの姿があった。

 彼は、私が起き出す頃に出勤することが多い。だから、こうしてゆっくりしている蓮さんに出くわすのは初めてのこと。

「おはよう、ございます」

 緊張気味に声をかける。

「おはよう」

 タブレットでなにかを読んでいた蓮さんが、チラッと顔を上げる。視線はすぐに下がってしまったが、一度はこちらを見てくれたことに無性に安堵した。

 今朝は出勤までに余裕があるのだろうか、と様子をうかがいながらキッチンへ向かう。

 この状況で、自分の分だけ朝食を作るのはどうにも気が引ける。
 食事は必要ないときっぱり断られているけれど……と、蓮さんの方を振り返った。

 テーブルには、食べ物も飲み物も置かれていない。彼はこのまま、なにも口にしないで出かけてしまうのだろうか。

「あの、朝ごはんは……コーヒーだけでも飲みますか?」

 迷惑かられるだろうか。
 私の考えを押しつけはしたくないが、どうにも気になって遠慮がちに声をかけた。

「それほど時間はない。だから、コーヒーだけもらおうか」

 断られる前提だったため、驚いてすぐに反応を返せない。
 顔を上げた蓮さんと再び目が合い、我に返る。

「い、今すぐ用意しますね」

 コーヒーメーカーに豆をセットして、スイッチを入れる。

 しばらくすると、香ばしい匂いが立ち込めてきた。
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