今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
 やっぱり彼は、単に冷たいだけの人じゃない。それを再確認できて、機嫌よく歌を口ずさむ。

 私が食事を済ませた頃、蓮さんの足音が聞こえてきた。
 小走りで玄関に向かう。

「いってらっしゃい」

 靴を履き終えて、立ち上がった蓮さんが振り返る。

「――遅くまで、無理しないように」

 昨夜も同じことを言われたが、やっぱり私を心配してくれているのだろう。その気遣いに胸が温かくなり、自然と笑みが浮かんだ。

「蓮さんも、お体に気をつけて。お仕事がんばってください」

「ああ。いってくる」

 私の目を見つめる彼の鋭い目が、ほんのわずかに緩む。
 ぼうっと見惚れている間に、彼は玄関を出ていった。

 それからの私は、蓮さんの分も朝食を用意するようになった。

 忙しい彼のこと。簡単に食べられるものの方がいいだろう。加えて、わずかでも栄養面でサポートしたい。
 そこで、単品で野菜もたんぱく質も取れるメニューを考えるようにした。
 たとえば、野菜とお肉を入れたオムレツ。それからたくさんの具を挟んだホットサンド。

 蓮さんの負担にならないものを。そう思いながらメニューを考えることは、なかなか楽しい。
 ずっと勤めていた会社を否応なしに辞めさせられた悔しさや、今後に対する漠然とした不安はいつもある。舞と入れ替わっているという罪悪感に、押しつぶされそうにもなる。
 そんな中で蓮さんのためになる努力をすることは、私を明るい気持ちにさせてくれるた。

 蓮さんは、わかりづらいけれど優しい人だ。仕事に対して誠実で熱心に向き合っている彼のことを、ここにいられる間だけでも支えていきたい。




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