今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
『蓮、あの子は合格よ』

 俺のもとに婚約者が来て二カ月ほどが経った頃、再び彼女について母から連絡が入った。父も同じ意見だという。というか、そのあたりは母に一任しているのだろう。

「まだ二カ月しか経っていませんよ。必要な知識は身につけられていないだろうし、態度だって猫を被っているだけもしれない」

 母にはそう言いながら、彼女の見せる姿は偽りではないだろうなと確信が持ててしまう。いつか豹変するかもしれないという警戒は捨てきれないが、そんなことにはならないだろうとも感じている。

 彼女が偽っているのは、むしろ母に会わない休日の姿のではないか。

 普段とはまったくイメージの違う派手な色合いの服を着て出かける姿を見かけたときは、止めた方がいいのかと迷ったほど。あきらかに似合っていない。

 いや、彼女のことをなにも知らなければ、少し派手だがああいう服装も悪くないだろう。

 ただ控えめな女性だとわかった上で見ると、どうにもしっくりこない。

 あの姿が素だというのなら、外出先で散財をしてくるのかもしれない。なんとなく身構えていたが、それも空振りに終わる。
 帰宅した彼女の手には、ラベルの付いた図書館で借りたとわかる本と食材の入った袋があるだけ。

 お互いについて詳しく知っているわけでもないのに、その様子をいかにも彼女らしいと思ってしまった。

『そうだとしても、あそこまで完璧に被れるのなら逆にかまわないじゃない? どの講師も彼女を褒めるばかりで、悪く言う人はいないわ。真面目で気遣いができる、いい子だと』

「へえ」

 母の話に、驚きはしない。

『あの子、教わったことをすべてノートにまとめて、さらに自宅でおさらいをしているそうじゃない。そんな子、初めてよ』

 和室を貸してほしいと言っていきたときは、なにをする気かと疑った。しかし実際には母の言う通り、自宅で着付けなどの練習をしているだけ。その姿を、俺も数回見かけている。
 婚約者が真面目で熱心な女性だというのなら、文句などあるはずがなかった。
< 41 / 111 >

この作品をシェア

pagetop