今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
『藤沢さんには言いたいことがあるけれど、あの子を逃してはだめだと思うわ。蓮としてはどうかしら?』

 母に問いかけられて、言葉に詰まる。

 今のところ彼女に大きな欠点は見つからないが、さらに具体的に言えることが俺の中にはない。
 わからないなどと言えば、必要最低限しか関わっていないと白状するようなもの。ここでなじられるのは、避けておきたい。

「……彼女で、いいかと」

『蓮。あなた、まさかと思うけれど』

 これまでの婚約者候補とは、同居などしていない。ただ月に何度かふたりで出かける時間を作るようにとなっていたが、仕事を理由に連絡すらほとんどとっていなかった。

 相手の女性は縁談を断わる理由として、俺とよい関係をつくる自信がないと前面に出してきている。それは事実だから言いわけの仕様もないが、大きな要因でないこともわかっている。

 花嫁修業についていけなかったなどと白状するのは、プライドが許さなかったのだろう。まどかに見ていた母は、正確に把握していたが。

『あの子に関わっていない、なんて言わないでしょうね?』

 返す言葉もない。

 スマホ越しに、非難の意味を込めたため息が聞こえてくる。

『蓮……。彼女の口からあなたの様子がまったく出てこないから、おかしいと思ったのよ。蓮にとっても負担でしょうけど、彼女はもっと苦労しているのよ。ほぼ初対面の異性と同居して、勉強漬けの日々が楽なわけがないわ。それでも学べることがうれしいなんて、健気なことを言いうの。こちらが厳しくする分、労わってあげられる人間がいなければ、潰れてしまうかもしれないわ』

 彼女を心配する母だが、求める水準について妥協をするつもりはない。それは純粋に、高宮家のことを考えているからだ。

「そうですね」

 このままいけば、彼女とはいずれ夫婦になるだろう。今さら、なにもしていない本物の藤沢舞が出てくることはない――と思いたい。

 しかし、油断はできないだろう。
 彼女の言動は、利き手を偽ったり明らかに着なれない服を纏ったりと違和感だらけだ。本来の自分を偽るような行動を取っている理由はなにか。

 妻となる女性について、もう少し知るべきだ。こちらから接触する機会を増やそうと決めると同時に、彼女について生い立ちから詳しく調べる手配をした。
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