今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
 今から約二カ月前に職場を退職した唯の、その後の同行がまったく掴めていない。時期としては、藤沢舞との顔合わせが行われた直後くらいだ。ほかの会社に再就職した様子も見られない。

 同じ頃、姉の舞も表に姿を見せていなかった。勤め先である藤沢屋は休職扱いになっているが、もともと出勤しても大した仕事はしていなかったのが実態だ。たまに顔を出すだけで一般社員よりも多めの給料をもらい、外で遊び惚ける毎日。

 そういった言動が一時的にぱたりとなくなっていた舞だが、一週間ほどが経つと再び遊び歩いている。
 散財するくらいならまだましというもの。舞は複数の異性と会い、その場限りの関係を楽しんでいた。

 どうやら、自分は唯だと名乗ることもあるのだという。
 そうかと思えば、違う男の前では『来年には高宮家に嫁ぐのよ』などと言いふらしてもことも確認した。おそらく、うちとのつながりを求める男らの関心を集めていたのだろう。

 藤沢舞は、面倒な花嫁修業を妹の唯に押しつけた。そして、結婚するタイミングで入れ替わるつもりでいる。その際には、遊び歩いていたのは唯だと、お得意の擦り付けをするに違いない。

「ばかばかしい」

 手にしていた資料に、くしゃりとしわが寄る。

 花嫁修業が面倒になり、舞は婚約者を降りたのかと思っていたが……と、握りつぶした資料を睨みつける。

 最後に唯と入れ替わる可能性は勿論想定したが、さすがに半信半疑だった。あまりにも浅はかとしか言いようがない。
 入れ替わるなど、見え透いた嘘がバレないわけがない。こんな茶番で高宮家を騙し通せると思っているのだとしたら、ずいぶん馬鹿にされたものだ。

 これらの資料から推測するに、姉の暴挙に唯は反対したのだろう。信じがたいが、両親もそれに賛成をした。
 そこで言いなりになってしまう唯の弱さは気になるが、家庭内で味方がいない環境に長く置かれていたことを考慮したら仕方がないこと。そばで支える存在ができれば、彼女も変わるだろう。芯はしっかりした女性なのだと、日ごろの様子を見ていればわかる。

 はたして俺に、その役が務まるだろうか。
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