今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
 入れ替わりを理由に、彼女を切り捨ててほかの女性を選ぶ道もある。藤沢屋については、今回の件をきっかけにこちらに有利となる条件で傘下に組み込んでしまえばいい。それが最も効率的で、こちらにとっても利になるやり方だ。

 そう考えたところで、ふと唯の顔が思い浮かんだ。

 どのレッスンにも意欲的に取り組み、あの厳しい母を憧れると慕う唯。俺の態度がどれほど冷たくとも、彼女は優しさをなくさない。
 最近はこちらが態度を軟化させたのもあり、彼女は自然な笑みを見せてくれるようになった。それをうれしく思うのはなぜか……と考えかけて頭を振る。

 絆されたとは言わないが、彼女のことを手放しがたくなりつつあるのは認める。

 自分にとって都合がいい存在だから。それだけが理由ではなくなったのは、彼女の同情を禁じ得ない生い立ちを知ったからか。
感情に左右されるなど俺らしくないと、頭を振る。

 双子の入れ替わりに、こちらが気づいていると悟らせるのは悪手だ。不安を抱えている唯を、ますます追いつめかねない。

 唯が両親らの言葉に素直に従ったのは、おそらく藤沢屋の将来が心配だったこともあるはず。自身の振る舞いひとつで、社員らはどうなってしまうのか。唯がたまに見せる張りつめたような雰囲気は、それが大きな原因になっているだろう。

 このまま彼女を俺の手もとに置いておくことに、デメリットは少ない。彼女の気持ちを置き去りにするのは申し訳ないが、舞との入れ替わりさえ阻止すれば唯が俺の妻となる。

 藤沢屋についても、今回の入れ替わりを理由にこちらの都合のいいように動かしやすくなる。

 俺にとってメリットの方がはるかに大きいから、この関係を維持していく。
 そこに俺の感情は関係なのだと言い訳がましく思うが、何度振り払っても彼女の笑みが脳裏から消えてくれなかった。





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