今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
「お義母様、お聞きしたいことがあるのですが」

 翌日、レッスンを終えたところでお義母様に声をかけた。

「この後は時間があるので、かまいませんよ」

 お義母様とは、平日はほぼ毎日顔を合わせている。
 高宮家を守るために、厳しい一面を持ち合わせた人だ。けれどそれだけではなく、私を気遣うようにお茶に誘ってくれたことが何度もあった。

「実は、蓮さんの食べ物の好みを教えていただきたくて」

「息子の?」

「はい。いつもは仕事がらみの会食が入っていることが多いんですが、今夜は予定が入っていないから食事を頼まれたんです」

 昨夜を思い出して、自然と笑みが浮かぶ。そんな私に、お義母様は口もとを緩めた。

「あっ、朝食は毎日作っているんですよ。その、夕食を作る機会があまりないっていうだけで……」

 蓮さんと暮らすようになって三カ月以上経つというのに、まるで家事はなにもしていないように聞こえてしまったかもしれない。朝食だって作り始めたのは少し前からだというのに、慌ててそれらしく付け加えた。

 チラッとお義母様を見る。
 私と目が合った彼女は、堪えきれないというように小さく噴き出した。その珍しい様子に、思わず目を見開く。

「大丈夫よ。蓮が多忙なことはわかっているから、そんなことで責めたりしません。それより、蓮が朝食をとるようになったのね」

 お義母様が、切れ長の目をふっと緩める。

「高校生くらいの頃からだったかしら。こちらがどれだけ食べるように言っても、忙しいとか時間がないとか言って、朝食がだんだん適当になっていってしまって。そのうち家を出てひとり暮らしを始めたら、まったく食べなくなってしまったのよ」

 お義母様が小さく嘆息する。母親の顔を見せる彼女に、私の中にまだ残っていた緊張がすっかり解れていく。

 蓮さんの朝食問題は、お義母様にとって長く続く大きな気がかりだったのだろう。それは私も同意で、眉を下げた。
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