今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
「舞さんは、あの子のことを心から心配してくれているのね」

「もちろんです」

 最初は冷たい人だと感じていたけれど、私は彼の優しさを知っている。
 それに、休みも返上して働いているくらいだ。仕事に対しても熱心で、誠実に取り組んでいるのだろう。
 彼が無理をしていないか、不安にならないはずがない。

「ありがとう」

 初めて目にするお義母様の小さな笑みがうれしくて、私も自然と笑顔になる。

「それで、蓮の好物の話だったわね」

「はい」

「そうね……基本的に好き嫌いはなくて、和食も洋食もなんでも好んでいたわね」

 お義母様も多忙なため、家事は使用人に任せている。けれど料理だけは自分で作っていたようで、実家で暮らしていたときの蓮さんの様子を教えてくれた。
 蓮さんはカレーやハンバーグなど、一般的に男の子が好みそうなものを気に入っていたという。

「ただ、私が作るのは和食が多かったの。一度も文句は言わなかったけれど、不満はあったんじゃないかしら」

 お義母様が苦笑するが、そんなことないと思う。

「そうだわ。これから一緒に作ってみましょうか?」

「え?」

 予想外のうれしい提案に、目を瞬かせる。

「いいんですか?」

「ええ」

 いつになく明るい口調で返してくれたお義母様に、浮き立つ心を抑えきれなくなる。

「ありがとうございます! ぜひ教えてください!」

「もちろんよ」

 祖母と暮らしていたとき、料理をよく手伝っていた。
 今にして思えば幼い子どもが役に立てることはあまりなくて、かえって邪魔になっていたかもしれない。
 でも祖母はいつだってうれしそうにしてくれて、一緒にキッチンに立つ時間は私にとってお気に入りだった。

「あなたは、いずれ私の義娘になるのよ。こうして甘えてくれるのは、うれしいことだわ」

 義娘……。

 その言葉に、顔が引きつりそうになる。楽しみな気持ちに影が差し、胸がズキズキと痛みだす。
 蓮さんと結婚するのは、姉の舞だ。私は身代わりにすぎず、これほどよくしてくれるお義母様を騙し続けている。

「わ、私も、教えていただけて、すごくうれしいです」

 あなたの義娘になれることがとは、言葉にできない。
 それでもこの気持ちは本物だと伝えたくて、無理やり笑みを浮かべた。

「まあ、よかった。それじゃあ、早速キッチンへ行きましょうか」

 この人の、悲しむ顔は見たくない。お願いだから、舞にはこの関係を壊さないでいてほしい。



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