今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
「ただいま」

「おかえりなさい」

 いつもよりは早く帰宅した蓮さんを出迎えてから、食事の準備に戻る。そうしている間に、着替えを済ませた彼がダイニングへやって来た。

「手伝うよ」

「ありがとうございます」

 こちらからなにも言わなくても、蓮さんは自ら動いてくれる。多忙なため家事はプロに任せてきた彼だが、本来はなんでも自分でこなせる人なのだろう。

 本当はゆっくりしてもらいたいところだけれど、こうして一緒に準備している時間がすごく大切な気がして素直にお願いする。

 用意ができて、向かい合わせに席に着く。テーブルの上を見回した蓮さんはわかりやすく表情を緩め、私と視線を合わせてきた。

「これは、もしかして?」

「はい。お義母様に教えていただきました」

 私がなにも言わなくても、彼にはわかってしまう。
 それも当然かもしれない。メインの魚の煮つけは、お義母様の作る料理の中でも彼が特に気に入っているものだというから。

 義実家で一緒に作った料理を持ち帰るために、お義母様がタクシーを手配してくれた。彼女が随所で見せる気遣いは、私も見習いたいところ。

「蓮さんの好物を知りたくて、お義母様に尋ねたんです。そうしたら、一緒に作りましょうって言ってくださって」

 祖母を手伝ったときよりも、今の私ならもちろん戦力になっていたはず。

『舞さんは料理に慣れているのね』

 というお義母様の言葉に曖昧にしかうなずけなかったのは、本当の舞はまったく料理ができないから。
 そんな暗い考えもよぎったが、お義母様と過ごした時間は本当に楽しかった。

「母が、そんなことを……」

「子どもの頃の蓮さんの話も、聞かせてくれましたよ」

 つい、「ふふふ」と笑いが漏れる。

 普段は言葉数の少ないお義母様だが、料理をしている間はいつもよりもたくさん話をしてくれた。主に、蓮さんの話を。
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