今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
「おかえりなさい、蓮さん」

「ああ、ただいま」

 私と視線が合うと、彼は目を細めた。
 まだ見慣れない彼の柔らかな表情を目にするたびに、私は胸を高鳴らせている。

 一緒に暮らすのだから、親密とまでは言えなくても気さくな関係になりたい。この生活がスタートしたばかりの頃の私は、たしかにそう望んでいた。

 けれど、今は少し辛い。距離が近くなった分だけ、彼から離れがたくなっていく。

 暗い気持ちを無理やり隠して、ダイニングテーブルに夕食を並べる。
 着替えを済ませてやって来た連さんは、それらを目にして口角を上げた。お義母様の言っていた通り、から揚げも彼の好物らしい。

「美味しそうだ」

 蓮さんの小さな笑みに、密かに満足する。

 食事をしながら、請われるまま今日の出来事を話して聞かせる。

「覚えることがたくさんあって大変だけど、すごく充実しています」

「そうか」

 彼は口数が多い方じゃないが、うなずきながらすべて聞いてくれる。だからつい調子に乗って、私ばかりが話してしまう。

「お義母様にも、すごくよくしてもらって」

「母は、君を気に入ってる」

「よかった」

 安堵にほうっと息を吐き出す。

「それにしても、こう何種類もおかずを用意するのは大変じゃないか? 君だって、レッスンを受けたり復習をしたり大変だろ?」

「もしかして、多すぎましたか?」

「いや、そんなことはない。どれも美味しくて、ありがたいばかりだ」

「よかった。お料理は嫌いじゃないので。いくつか常備菜として、まとめて作り置きをしてるんです。だから、すべて今日作ったものというわけでもないんですよ」

 お義母様から教えてもらったレシピで作ったものも、たくさんある。それを出すと、蓮さんはいつもおっという顔をして、『また教えてもらったのか?』と尋ねてくる。

 彼としても、母親と婚約者の仲は歓迎すべきものだろう。この関係を、舞が守ってくれるといいのだけれど。
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