今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
「まだ熱が引かない。風邪だろうな」

 翌朝になり、起きられないでいた私のもとへ蓮さんがやって来た。
 体調は、よくなるどころか悪化している。

「ごめん、なさい」

 喉がひどく痛み、話すのも辛い。

「あ、朝ごはんは――」

「こんなときまで、俺の心配などしなくていい」

 実際のところ、キッチンに立つような気力はない。風邪をうつしたらいけないとわかっているけれど、彼のために作りたかったと気分が沈む。

「母にはしばらく休むと連絡を入れておく。なにも心配せずに、寝ていればいいから」

「……はい」

 昨日の帰り際に、お義母様も心配しいたというのに。素直に従わなかった私は、なんと可愛げがなかっただろうか。結果として、こうしてたくさん迷惑をかけている。

 後悔ばかりが押し寄せてくる中、彼が部屋を出ていくのを視線で追い瞼を閉じた。

 どれくらい時間が経っただろうか。次に蓮さんがやって来たとき、彼はお盆を手にしていた。

「食べられそうか?」

 体を起こすのを、彼が手伝ってくれる。

「ありがとう、ございます」

 目の前に差し出されたのは卵がゆ。どうやら蓮さんが手作りをしてくれたらしい。

 あまり食欲はないけれど、彼が用意してくれたのなら食べたいと気持ちが前を向く。
 息をかけて冷まし、口に含む。ふわふわの卵が美味しくて、さらにもうひと口と食べ進める。気づけば、すっかり完食していた。

「後で病院に連れて行くから」

「え?」

 今日は平日だったはず。時計を見れば、いつも彼が出勤する時間はとっくに過ぎていた。

「蓮さん、すみません。病院はひとりで行けるので、蓮さんはお仕事に行かないと」

 慌てて立ち上がろうとしてふらついた私を、蓮さんが優しく押し戻す。

「どう見ても無理だろ?」

 蓮さんが苦笑する。
 立つこともままならない状態なのだから、言い返す言葉もなかった。

「こんな状態の君を、放っておけるわけない」

「でも、うっ」

 寝ていればいいからと言いかけて、咳込んでしまう。

 蓮さんにとって、藤沢家との縁談は不本意なものだったはず。ここのところ打ち解けてきたとはいえ、仕事にまで影響の出る負担をかけられたら苛立ちもするだろう。

 あまりにも自分が不甲斐ない。もう彼の方を見られなくて、顔を伏せた。
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