今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
 風邪でダウンして三日目。熱は下がり咳もほとんど出なくなったため、ようやく動き回ることができる。

「蓮さん、おはようございます」

「もう起きて大丈夫なのか?」

 久しぶりに早起きしていた私の顔色を確かめるように、蓮さんがじっと見てくる。ちょっと気恥ずかしいけれど、視線を逸らさず問題ないとうなずいてみせた。

「はい。もう問題ないです」

「よかった」

 目を細める蓮さんに、ドキリと鼓動が跳ねる。

 この三日間はすっかり弱りきっていたから、なにかを考える余裕なんてなかった。

 でも元気になった今、冷静に振り返ってみると身悶えするほど恥ずかしくなる。
 体を起こすために何度も背中を支えられ、熱が上がっていないか直接額に触れられもした。頬をなでる彼の手に自ら擦り寄ったことも、おぼろげながら覚えている。

 彼は嫌じゃなかっただろうか。

「その、すっかりご迷惑をおかけして、ごめんなさい」

 あの日、仕事を休んだ彼は私を病院へ連れて行き、帰宅後もあれこれ世話を焼いてくれた。

「謝る必要はない。元気になってよかった。君の手料理が、恋しくなっていたところだ」

 恋しいだなんて、普段の蓮さんなら言わないような言葉だ。私が過剰に罪悪感を抱かぬよう、こんなふうに言ってくれたのだろう。

「そう言ってもらえて、うれしいです。食べましょう」

 対面で座り、箸を手に取る。

「今日からまた、母のところは通うんだったな?」

「はい。休んだ分を、しっかり取り戻してきます」

「気負いすぎなくていい」

 そうはいかないと、首を横に振る。

「でも、もう無理はしません。体調がよくないと感じたら、お休みさせてもらいますから」

 それならいいがと、彼がうなずいた。
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