今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
「お礼に?」

 風邪から回復して十日ほどした頃、蓮さんがいつものお礼に外食に誘ってくれた。

「ああ。日頃から君は、俺や高宮家のために本当によくがんばってくれているから」

「それは当然のことです」

 私は、一年間の花嫁修業を承知でここに来ているのだ。
 放棄したら追い出されてしまう……というのは、私の中では建前になっている。
 知識や技術を身につけた分だけ、蓮さんの支えになるかもしれない。いなくなる立場でおかしな考えだが、それが本当の理由だなんて知ったら、蓮さんはどう思うだろうか。

「むしろ、こちらがお礼をしないと。私が風邪をひいたせいで、ずいぶんと迷惑をかけてしまって……」

「大切な婚約者の心配をするのは当然だ。迷惑なわけがないだろ」

 熱い視線に真っすぐ見つめられて、ドキリと鼓動が跳ねる。

 ふたりの関係が、私の体調不良をきっかけにさらに近づいたのは気のせいか。まるで、彼が私を想ってくれているかのように勘違いしそう。

 蓮さんにとっては、再びほかの女性と顔合わせをするのが煩わしいだけだというのに。時間が惜しいから、私を大切にしてくれるのだ。この家から、逃げ出さないようにするために。

 それ以外の感情を、彼の中に望んではいけない。

 都合のいい存在だと思われていたとしても、彼を非難するつもりは微塵もない。そもそも私だって、舞だと偽ってここにいるのだから。

「で、でも、レッスンをがんばるのは当然のことで、家事だって多忙な蓮さんを支えたくて。け、結婚したら、私の仕事になるわけですし……」

 自分で〝結婚〟と口にしておきながら恥ずかしくなり、ごにょごにょと口ごもった。
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