今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
「ああ、そうか。俺の誘い方が悪かったんだな」

 どういう意味か、視線で問いかける。

「たまにはデートをしよう。婚約者らしく、君をエスコートさせてくれないか?」

 直球なお誘いに、ピキリと固まる。それから、じわじわと頬が熱くなってきた。

「デ、デート……」

「そうだ。君のことを、もっと知りたいんだ」

 蓮さが目もとを緩めてそんなふうに言うから、鼓動が痛いほど打ち付け始める。

 彼はどうしてこうも、情熱的に私を見てくるのだろう。恋愛感情は必要ないと、きっぱり言いきった人にはとても思えない。

「だめか?」

「だ、だめなんかじゃ、ないです」

 彼の表情の変化は、それほど大きくない。でも残念に思っていることは、わずかに目じりが下がったことから伝わってきた。

 慌てて否定したのはいいけれど、よくよく考えたら私に異性とのデート経験はない。

 これまでに出会いがなかったわけじゃないが、どうしても一歩を踏み出すことができないでいた。だから、この歳になっても恋愛経験はゼロのままだ。

「よかった」

 小さく笑みをこぼす彼に、目が釘づけになる。
 私の返事ひとつで、蓮さんが安堵するとは思わなかった。

 本当に、これも演技なの?
 そう疑っていないと、特別な想いがあるのだと信じてしまいそうになる。

「今週末は、予定を空けておいてくれ」

「……はい」

 私たちの関係に、恋愛感情は伴わない。
 そうわかっていても、好きな人に誘われたらどうしたって心が浮かれてしまった。




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