今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
「これを、君に」

 約束の週末。自宅で昼食を食べ終えたところで、蓮さんは渡したいものがあると言う。

「どうだろうか。よく似合うと思うんだが」

 目の前に掲げられたのは、淡いローズピンのワンピース。
 今夜はディナーに連れ出してくれる約束をしているが、そのためのものだろう。

 全身は、透け感のない総レースの生地が使われている。長さは膝丈。五分袖にはスリットが入ったつくりになっているため、動きに合わせてひらひらと揺れて涼しげな印象になりそうだ。
 全体的に素肌を出しすぎず、けれどまったく隠しているわけではないから暑いこの季節にぴったり。

「素敵……」

 ちょっとしたおよばれにも対応できそうな上品で洗練されたデザインで、あきらかに高価なものだろうと思われる。

「じゃなくて、こんな高価なものを受け取るわけには……」

 思わず漏れ出た本音に慌てながら、手を小さく振る。

「気に入ったってことだな?」

「え、ええ。こういうデザインは、すごく好きです」

 派手すぎず、けれどその軽やかさや色味が華やかに見せてくれる。

 休日は、舞に持たされた露出が高くはっきりした色の服を身につけていた。それがどうにも自分には合わなくて、なにをしていても落ち着かない。

「よかった。大切な婚約者に、プレゼントのひとつもできていなかったから」

「それは、私も同じです」

 プレゼントなんて、考えもしなかった……って、まるで〝大事な婚約者〟の部分に同意したように聞こえなかっただろうか。

「君からは、たくさんのものをもらっている」

 よかった、勘違いはされていないみたい。

 ただ、彼の言うようなはずはなくて困惑する。

「朝食は、短時間で手軽に食べられるようにしてくれているだろ? 栄養面もしっかり考えてくれている。それは俺の健康を心配してのことだ。違うか?」

「その通り、です」

 気づいてくれていたんだと、胸が温かくなる。

「疲れて帰宅したとき、君に笑顔で迎え入れられるのも癒やされている。そういう気遣いを、俺は君からたくさん受け取っている」

「そ、そういうのは、プレゼントとは言いませんよ」

 なんだか気恥ずかしくなって、早口になる。

「受け取る側の、感じ方次第だ」

 蓮さんの捉え方は、大げさだ。

 でも、私のしてきたことが彼にとって迷惑になっていないことはわかった。
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