今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
 約束の時間に間に合うよう、プレゼントされたワンピースに合わせてメイクを直す。

 普段のような薄付きでは、少し物足りないかもしれない。
 かといって、休日のような濃い仕上がりにはしたくない。あれは、あくまで舞を意識したものだ。

 蓮さんは私を大切な婚約者だと言って、デートに誘ってくれた。
 一度も本当の名前は読んでもらえなかったとしても、今夜だけは藤沢唯でいたい。それは両親や舞に対する小さな反発心であり、私のたしかな本音でもあった。

 目もとには、ベージュのアイシャドウを使って柔らかな印象にしていく。口紅はラメ入りのものを選んだ。
 派手さは弱いかもしれないが、清楚な印象に仕上げられたと思う。

 全身を何度もチェックし、時間になったところでリビングへ向かった。

「お待たせして、すみません」

 蓮さんは、すでに準備をして待っていた。

 光沢のあるグレーのスーツを着た彼は、普段よりさらに素敵だ。そんな彼がじっと私を見つめてくるから、恥ずかしくてうつむきがちになる。

「よく似合っている。綺麗だ」

 女性をさらりと褒められるのは、育ちのよさ故なのだろう。完全な社交辞令だとわかっているのに、うれしさに胸の奥が疼く。

 彼の言葉に自惚れてはだめだと、必死に自分に言い聞かせる。そのせいで、咄嗟にお礼の言葉も出てこなかった。

「さあ、行こうか」

 促されるまま駐車場に向かい、一台の高級車の前で足を止めた。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

 助手席のドアを彼が開けてくれる。こんなふうに丁重に扱われた経験はなくて、なんだか緊張する。

 対する蓮さんはすべての振る舞いがスマートで、慣れているのだろうと思わせる。

 過去に交際していた相手にも、紳士な態度でエスコートをしたのだろう。それに、何人かいたという婚約者の女性も。
 そんな想像をするだけで、胸が軋んだ。
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