今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
「喜んでくれたようで、よかった」

 祖母に似た私の感覚を、舞はいつも否定した。

 彼女は、新しいものを次々に欲しがる派手な生活をしていた。手に入れたものはすぐに飽き、さらにほかのものを欲しがることの繰り返し。

 舞から見たら、私の生活は流行遅れのつまらないものだったのだろう。

『そのダサい服、よく着られるよね』
『それ、まだ使ってるの? 貧乏くさいわね』

 悪気ない様子でそう言う舞の態度には、すっかり慣れてしいる。

「蓮さん、連れて来てくれてありがとうございます。この初デートは、私の中で一生宝物にします」

 別れの辛さは、この記憶がきっと慰めてくれる。

 彼のもとを去った後、蓮さんとは二度と会うことはないだろう。というか、私が彼の前に顔を見せてはいけない気がする。
 それにいくら義理の関係になるとはいえ、舞と寄り添う蓮さんを平気で見ている自信もない。

 こうして彼に大切に扱われた事実が、きっと私を強くしてくれる。だから、ひとりになっても大丈夫。

「大げさだな。これからも、もっと君を連れ出すつもりだ。今日だけで満足してもらっては困る」

 苦笑する蓮さんを見ていると、切なくなる。

 彼と生涯寄り添うのは舞だ。私は入れ替わりに気づかれないよう過ごして、そっと去るだけ。
 最初からそういう約束なのに、蓮さんを好きになったせいで別れが辛くてたまらない。

 苦しさが込み上げてくるが、蓮さんには悟らせない。

 今夜のデートは藤沢唯として楽しむと決めたのだから、その幸せを伝えるように本心からの笑みを浮かべてみせる。わずかに目は潤んでいるが、喜びの涙だと伝わってほしい。

「楽しみです」

 目もとを緩ませる蓮さんに、もう何度目か胸を高鳴らせる。

「ああ。俺も、楽しみにしている」

 お願いだから、これ以上私の気持ちを揺さぶらないでほしい。彼への好意が、際限なく膨れ上がってしまうから。

 食事はあっという間に終盤に差し掛かり、チョコレートを使ったデザートが運ばれてくる。それを目にした途端、口もとが緩むのを止められない。
 食べるのがもったいない気がして、ゆっくりと口に運ぶ。ほどよい甘さが広がり、ますます笑みを深めた。

「美味しい」

 そう漏らした私に、蓮さんが自分の分を差し出そうとするから慌てて止めた。

「今夜はこんなに素敵な服を着せてもらって、蓮さんにエスコートされて……本当に幸せです」

「俺の方こそ。君と一緒に過ごせて、らしくなく浮かれている」

 この人は、私を喜ばせるのが本当に上手い。

 たしかに優しい表情を見せていた蓮さんだが、終始落ち着いていた。浮かれていたなんて、まったく思えない。
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