今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
「決められた相手と結婚することを、俺は当然だと受け入れていた。自分で選ぶのが手間だったから、ちょうどよかった」

 すっと真面目な表情になる蓮さんに、わずかに緊張が高まる。

「ずいぶんな言い方だろ? わかっているんだが、女性を嫌悪しているというか。学生の頃から知らない女性につけまわされたり、友人だと思っていた異性に裏で俺の恋人だと偽って好き勝手されていたり。そんなことばかりで、自分から異性に関わりたいと思えなかった」

 私の想像より、彼はもっと嫌な思いをしてきたのだろう。

「会社同士の関係を考慮して、勝手に婚約者を決めてくれるのなら好都合。相手は誰でもかまわなかったんだ」

 瞼を伏せる蓮さんを見つめる。彼の苦しみに、胸がしめつけられる。

「そうだとしても、俺の振る舞いは本当に最低だった」

 たしかに、それは否定しない。
 でも私は本来の彼の優しさを知っているから、もう最低だとは思わない。

「君が俺のマンションに来たときにぶつけたひどい言葉の数々は、身勝手だがすべて撤回させてほしい。本当にすまなかった」

「ちょっ、蓮さん、顔を上げてください」

 深く頭を下げる彼に、慌ててしまう。
 私がどれだけ促しても、彼はしばらくそのままでいた。

「私を受け入れるのが不本意だったでしょうに、蓮さんはいつも気にかけてくれました。体調を崩したときだって、仕事を休んでまで傍にいてくれて。あのとき、あなたがいてくれて本当に心強かったんですよ」

 ようやく彼が視線を上げた。

「蓮さんが優しい人だと、一緒に過ごして十分に伝わっていますから」

 だから、過去の発言でもう後悔しないでほしいと見つめ返す。
 私の気持ちが伝わったのか、蓮さんが表情を緩めたからほっとする。

「結婚するのなら、君しかありえない」

「え?」

 かと思えば予想していなかったことを言われ、ドキリと胸が跳ねる。

 彼の真摯な視線は、いつの間にか熱を帯びている。
 真っすぐ射貫かれて、この場に縫い留められたように身じろぐことすらできなくなった。

「もう、君意外の女性など考えられない」

 お願い、私を喜ばせるようなことは言わないで。膨れ上がる彼への気持ちを、止められなくなってしまう。
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