今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
 名家に嫁ぐなんて、簡単な話ではないはず。経営者の伴侶の苦労は、母を見ていれば想像できることだ。

 仕事に就いていない母だが、社長夫人として父について回る機会は多くある。
 着物着て、髪を整える。それだけでたくさんの時間をつかい、さらに出かけた先で緊張を強いられる。父との用を済ませて帰宅した母はぐったりしていることが多いと、団らんの場にあまり混ざらない私でも知っている。

 うちとは比べるのもおこがましいほど大企業の経営者に嫁ぐとなると、それ以上に多忙になるかもしれない。当然、必要な作法なんかも身につけなければならないだろう。

 それに、お相手の家は旅館経営から始まっている。そこから想像するに、大事な場で和装が標準かもしれない。

 和服を扱う家に生まれたというのに、残念ながら私たち姉妹は自分で着付けができない。そんなの、高宮家側も想定外だろう。

 そういう大変さを理解しているだろうかと、隣の舞を見る。

「私が嫁ぐから!」

「よし。じゃあ、その方向で話を進めるからな」

 私の意思は確認されないまま、藤沢家の方針が決定する。
 それについては、べつにかまわない。
 私には関係のない話になったと、ほっとしている。

 けれど、本当に大丈夫だろうか。
 浮かんだたくさんの不安は、いつまでも私の心の中に燻り続けてい
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