今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
* * *

「ちょっと、唯。いるんでしょ?」

 ノックもないまま、舞がいきなり部屋の扉を開けるから驚いた。慌てて体を起こし、ベッドから立ち上がる。

「ねえ、私いいこと考えたの!」

 遠慮もなく入ってきた彼女は、私と入れ替わりベッドにどかっと座り込んだ。

「一年間の花嫁修業さあ、私の代わりに唯がやってきてよ」

「え……」

 舞の代わりって……どういうこと?
 なにを言われているのか理解が追いつかず、首をかしげる。

「ねえ、聞いてるの? 私の振りをしてやってきて、って言ってるの」

 上目遣いに私を見ていた彼女が、不快そうに眉を寄せた。

「ちょ、ちょっと待って。そんなの、無理よ」

 我に返って、首を横に振りながら全力で否定する。
 こんなとんでもない提案など、とても正気とは思えない。

 でも、舞の目は本気だと言っている。

「舞が嫁ぐのよね? それならあなたが行かないと」

「もう、相変わらず唯は真面目なんだから。大丈夫だって。私たち、見た目は同じじゃない。向こうは一度しか会ったことないんだし、見分けられるわけないって」

「そういう問題じゃないでしょ。相手を騙すようなことをして、もしバレたら……」

「唯の癖に、私に逆らう気?」

 不意に声のトーンを暗くした舞が、私を睨みつけてくる。
 この目で見られると、言葉が出て来なくなってしまう。

 ビクッと肩を揺らした私に、彼女はニヤリと笑った。

「バレっこないわよ」

 視線を和らげた舞が、ひらひらと手を振る。
 どうして、これほど楽観的でいられるのか。いつもは姉に対して遠慮がちになる私だが、ここで引くわけにはいかないと勇気を振り絞る。

「私にも仕事があるし、そもそもお父さんたちが許すはずがないじゃない」

「パパもママも、OKしてくれたわよ」

「え?」

 にんまりと笑う舞に、驚きを隠せない。言葉が続かず、呆然とした。

 舞の言うまま入れ替わりを実行して、もし嘘が露呈したら間違いなく縁談はなくなるだろう。もちろん新しい事業の話も流れるだろうし、そもそも白鳳亭の契約も見直されるかもしれない。
< 8 / 76 >

この作品をシェア

pagetop