今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
「ふさわしいとかではなく、俺と一緒にいたいかどうかだ。君の答えを聞かせてほしい」

 耳の近くでささやくように言われ、背中がぞわぞわする。溢れていた涙は、すっかり引いてしまった。

 状況がよくのみ込めていないが、彼にこうされていることが嫌だとは思わない。
 抵抗しないというだけで、やっぱり私の気持ちは彼にバレているのだろう。

「わ、私……」

 本当の気持ちを、口にしてもいいのだろうか。
 蓮さんは、藤沢屋の娘として私を受け入れているわけじゃない。ひとりの異性として、内面に惹かれたとまで言ってくれた。
 私を舞だと思っているだろうが、彼が見ていたのは名前や外見じゃない。

「蓮さんの、ことが……」

 彼に抱きしめられたまま、手をぐっと握りしめる。

 蓮さんはこれまでの自分の振る舞いを責めていたけれど、本当に悪いのは私の方だ。彼が私を本物の婚約者だと思っているのなら、気持ちを打ち明けても、彼の想いに応えてもなにも悪くないと自分を正当化しようとしているのだから。

「好き、です」

 言ってしまったと、身を縮こませる。
 それを感じ取ったのか、彼の腕にさらに力がこもった。

「考えすぎかな。どうにも、君がどこかへ消えてしまう気がしてならない」

 ギクリと身を強張らせる。
 もしかして、彼はなにかを察している? 

「わ、私は、ここにいますから」

 未来の約束なんて、なにひとつできない。
 せめてもとそう言った私を、逃さないというように蓮さんがさらに追いつめてくる。

「俺の腕の中にいると、実感がほしい」

 首筋に顔をうずめられる気配に、体が小さく震える。

「今夜は、俺と一緒にいてくれないか?」

 その言葉がなにを意味しているのかくらい、経験のない私だって理解している。

 本当なら、拒否するべきだ。さすがに本物の舞じゃない私が、これ以上踏み込んではいけない。
 それはわかっているけれど、好きな人に求められて歓喜に震える心をどうしても偽れない。

 迷い、戸惑い、それから覚悟を決める。
 私の体に回された彼の腕に、そっと自身の手を重ねた。
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