今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
「私も……蓮さんと一緒に、いたいです」

「いいのか?」

 重ねて尋ね返され、小さくうなずく。

 体を離した彼は、私の手を取って立つように促す。そのまま、ホテルの一室に連れて行かれた。

 開いたドアの向こうに見えたのは、蓮さんのマンションにも引けを取らない広さの豪華な部屋。私の知っているビジネスホテルは大違いだ。
 広いリビング部分からさらに通路が伸び、その向こうにいくつかの部屋があるのが見える。
 床にはふかふかの絨毯が敷かれ、クリーム色で統一された調度品はどれも上品なものばかり。

 部屋の素敵さに圧倒される私の手を、彼がそっと包み込んでくる。さっきからずっとうるさい鼓動は、彼が間近から顔を覗き込んでくるからさらに暴れだした。

 羞恥心に耐えかねて、瞼をぐっと閉じる。

「男とふたりきりになったとき、目を閉じるなど無防備すぎる」

「ご、ごめ――」

 私の謝罪を遮って、彼が口づけてくる。
 思いのほか柔らかくて、心地がいい。

 角度を変えながら、繰り返し口づけが降ってくる。
 どうしていたらいいのかわからない上に、徐々に体から力が抜けていく。無意識のうちに、蓮さんにしがみついていた。

 口づけからようやく解放されて、恐る恐る瞼を開く。
 潤んだ瞳で彼を見つめ返すと、蓮さんはすっかり濡れてしまった私の唇を指で拭ってくれた。

「こんな表情を見せるのも、無防備になるのも、俺の前でだけにしてくれ」

「あ、あたり前です。蓮さん以外に見せる人なんて、いませんから」

 動揺して、つい強い口調になってしまった。おそらく、頬は真っ赤に染まっているに違いない。

 満足そうな顔をした蓮さんが、軽々と私を抱き上げる。

「きゃあ」

 咄嗟に彼の首筋に腕を回したのはいいものの、目の前に迫る蓮さんの顔にますます頬が熱くなってきた。

 寝室のベッドに優しく下ろされ、口づけが再開する。
 緊張は極限まで達し、体が硬くなる。それを解すように、彼の手が私の背を何度もなでていく。

 どうしよう……。
 経験がなくて、彼にしがみついているしかできない。

「心配いらない。俺にすべてを任せて」

 泣きそうになっていたそのとき、耳もとで蓮さんがささやく。
 初めてだって、絶対にばれている。それがたまらなく恥ずかしかったが、彼の言う通りにしていればいいと覚悟が決まる。
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